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企業におけるD&I推進のススメーーその基本的な考え方と取り組み事例 VOL.1:「企業活動とダイバーシティ&インクルージョン」

最近、企業によるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)への取り組みが、各種メディアにより頻繁に取り上げられるようになってきた。しかし、「いったい何から手をつけたら良いのか?」という企業も少なくないはず。そこでFamieeでは、企業がD&Iに取り組むに当たっての基本的な考え方や取り組み事例について、連載形式で紹介していくことにした。VOL.1では、企業におけるD&Iへの取り組みの意義と、その基本的な考え方を紹介する。

【細谷夏生氏 プロフィール】
日本法弁護士(資格登録を一時抹消中)。国内外でジェンダーと家族に関連する法律を中心に、実務と研究を行っている。

■今やD&Iを無視してはビジネスが成り立たない時代に

  企業がD&Iに取り組む必要があると言われ始めたのはいつからだろうか。最近、ビジネスのあらゆる場面で、毎日のように「D&I」という言葉を聞くようになった。多様性を意識した製品・サービスは日々増えているし、企業トップによるD&Iへの配慮を欠いた言動はメディアにも大きく取り上げられる。D&Iに貢献している企業の製品・サービスを選ぶ消費者は増えつつあり、Z世代は、就職先を決める際、収入や事業規模だけではなく、男女を問わない育児休業の取りやすさなど、その企業がどの程度D&Iを進めているかも考慮している。さらに、日本でも勢いを増しているESG投資では、従業員のD&Iに関する状況も、投資判断の重要な要素である。そのため、企業はもはやD&Iを無視してビジネスを行うことはできない時代になったといっても過言ではない。本連載では、Famieeが発行するパートナーシップ証明書を切り口に、企業活動とD&Iの関係について、2023年時点での日本の現状を解説する。

 企業とD&Iの関係を考えるとき、1つのキーワードは、サステナビリティ(持続可能性)である。SDGs(持続可能な開発目標)の「誰一人取り残さない/ Leave No One Behind」を実現するためには、社会の中に多様な構成員を包摂する必要がある。自分と違う者を排除する社会は脆く、経済成長の維持もままならないため、ビジネス環境としても安定しない。たとえば、政治的二極化が進むアメリカでは、近年、州が人工妊娠中絶を禁止することを認める判決や、人種的少数派の優遇措置(アファーマティブ・アクション)を違憲とする判決など、保守的な判断が相次いでおり、病院や大学だけでなく、製薬や教育などにかかわる幅広いビジネスに大きな影響を与えている。反対に、お互いの多様性を認め合い、どのような人も参加できる社会には、経済成長と新しいビジネス・チャンスが生まれる。製品やサービスのD&Iは新たな顧客層の獲得につながり得るし、社内のD&Iを進めることによって、企業は従業員の能力をより活用することができるようになる。そのため、D&Iは社会のサステナビリティの鍵であると共に、企業のサステナビリティの鍵でもある。

 では、D&Iを進めるために、企業は何をすることができるのだろうか。

■D&Iへの取り組みはさまざま。従業員や顧客はもちろん、広く社会に向けた取り組みも

 D&Iへの取り組みに固定されたロードマップやtodoリストはないが、たとえば、社内の人事制度や労働環境を見直し、多様な従業員が平等にアクセスできるものとなっているかを考えることは、明日にでも取り組むことができ、従業員にとっても自社の取り組みや成果が見えやすいので、1つの選択肢となる。また、近年、役員、管理職、管理職候補など、さまざまなレベルで多様性を確保するための目標を設定し、その取り組み状況と併せて社外にも情報開示を行う動きが主流となってきており、一部の情報については関連する法律で開示が義務付けられたり、コーポレート・ガバナンス・コードをはじめとするガイドライン等によって開示が奨励されていたりする。

 自社が提供する製品やサービスのD&Iは、企業が社会のD&I推進に貢献する方法の1つであり、これまでも多くの人々の社会参加を可能にすると共に、より多くの人々を結びつけてきた。たとえば、コロナ禍以降、会議の主流となったWeb会議システムは、身体障がいなどにより移動が容易でない人々が働くことを容易にしただけでなく、自動字幕機能により、聴覚にハンディがある人々や、会議で用いられる言語が母国語でない人々も、議論にスムーズに参加できる環境を作り出した。製品やサービスのD&Iは、新しい製品や機能の開発だけでなく、たとえば法律上の結婚をしていないカップルとその子供にも各種特典プログラムの「家族向け」サービスを適用したり、ペア・ローンなど従来は「家族向け」だった商品の利用対象を拡大したりすることも行われている。また、ファッション・ドールのラインナップに、人種、民族、性自認、身体障がいなどの多様な特徴を反映したり、アパレルウェアで従来の男性向けと女性向け商品の区別を撤廃したりする試みも見られる。さらに、たとえば調理家電のCMに男性タレントと女性タレントをいずれも起用することで、“料理は女性がするもの”という従来の価値観とは異なる家族像を発信するなど、広告等を通じた取り組みもある。

 企業は、自社に直接関連する取り組みを超えて、社会全体の取り組みに参加・支援することでD&I推進を行うこともできる。Famieeをはじめとして、D&Iに関連する社会課題の解決に取り組んでいる組織は多く存在するが、資金不足・人手不足を課題としている組織も少なくない。企業は、それらの組織に金銭や物資の支援を行ったり、従業員を派遣して人的リソースを提供したりすることにより、その組織の活動を通じて、社会のD&Iに貢献することが可能である。また、同性婚など社会全体で議論となっているテーマについて、企業として支持を表明することも、当事者や支援者たちにとって大きな力となる。

 本連載では、これらの企業によるD&Iの具体例について、Famieeの発行するパートナーシップ証明書を活用している取り組みを中心に、近年の国内外の情勢や社会の議論なども交えて紹介していく。


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